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理学療法士の供給過多は、2026年時点で既に現実の問題として進行しています。
厚生労働省の需給推計では2026年に供給が需要を明確に上回り、2040年には供給数が需要の約1.5倍に達すると予測されています。
資格があれば就職に困らなかった時代は終わりを迎えつつあります。
では、今の理学療法士はどのような状況に置かれていて、これからどう動けばよいのでしょうか。
本記事では公的機関のデータをもとに、増えすぎの背景から給与・就職への影響、飽和時代を生き抜くキャリア戦略まで、現場の視点を交えながら解説します。

結論からお伝えすると、理学療法士の供給過多は既に始まっています。
厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 理学療法士・作業療法士需給分科会」の推計によれば、2026年には供給が需要を明確に上回る局面に入り、2040年時点では供給数が需要の約1.5倍に達すると予測されています。
国家資格さえ持っていれば安定して働けた時代は、制度的・数的な意味で転換点を迎えているといえます。
地域・分野・専門性によって需給の状況は大きく異なり、データを正しく読み解くことが最初の一歩です。
まずは現状の数字から整理していきましょう。
理学療法士の人数がどれほどのスピードで増えているか、まず数字で確認しておきましょう。
日本理学療法士協会の統計情報によると、2025年3月末時点での国家試験合格者の累計は23万6,390人です。
さらに2026年3月に実施された第61回国家試験では、12,436人が受験し11,156人が合格(合格率89.7%)しており、2026年時点での累計合格者数は24万人を超えている水準です。
この増加ペースの異常さがよくわかるのは、過去との比較です。
理学療法士の資格制度が設けられたのは1963年のことです。
その後、資格保有者が10万人に達するまでに約50年かかりました。
ところが、2012年頃に10万人を超えてから、わずか10年余りで倍の20万人を突破しています。
過去50年と比べて約5倍のスピードで有資格者数が増えている計算です。
以下の表で、直近の国家試験合格者数の推移を確認できます。
| 年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 2022年(第57回) | 約12,800人 | 約11,312人 | 約88.4% |
| 2023年(第58回) | 約12,600人 | 約11,312人 | 約89.8% |
| 2024年(第59回) | 約12,900人 | 約11,391人 | 約88.3% |
| 2025年(第60回) | 約12,689人 | 約11,376人 | 約89.6% |
| 2026年(第61回) | 12,436人 | 11,156人 | 89.7% |
出典:厚生労働省「国家試験合格発表」、旺文社教育情報センター「第61回 理学療法士国家試験結果」
毎年約1万人以上の合格者が輩出されており、この傾向がすぐに止まる見込みは現時点では立っていません。
高齢化社会の進展を見越して養成校が急増した結果として、今日の供給過多の構造が生まれています。
「増えすぎ」や「飽和」という言葉が業界内外で広がるようになった根拠として、厚生労働省が公表している需給推計データがあります。
厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会 理学療法士・作業療法士需給分科会(第3回)」の資料では、理学療法士・作業療法士の需給について以下の見通しが示されています。
2040年時点の需要数はおよそ30万人前後と推計されているのに対し、現在のペースで有資格者が増え続けると供給数は45万人を超える見通しです。
この差はそのまま、働き口を求めて争う有資格者の数として現れてきます。
重要なのは、需要そのものが減っているわけではないという点です。
日本社会は高齢化がさらに進んでおり、リハビリテーションへの社会的ニーズは2040年頃までは増え続けると予測されています。
問題は需要の伸びをはるかに上回るスピードで供給が膨らんでいることであり、需要増を供給増が追い越してしまっているのが飽和の本質です。
以下の表で、需給バランスの変化を整理しています。
| 時期 | 需給バランスの状況 |
|---|---|
| 2010年代後半 | 需要と供給がほぼ均衡、一部分野で供給が上回り始める |
| 2020年代前半 | 供給が需要をわずかに上回る状態に移行 |
| 2026年頃 | 供給過多が明確化(厚生労働省推計) |
| 2040年頃 | 供給数が需要数の約1.5倍に達する見込み |
出典:厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 理学療法士・作業療法士需給分科会(第3回)資料」
こうした推計を踏まえると、今後は「国家資格を持っている」というだけでは就職先の選択肢が限られるケースが増えると考えてよいでしょう。
なぜここまで理学療法士が増えすぎる状況になったのか。
その背景を理解するためには、養成校の増加という構造的な問題を見ておく必要があります。
日本理学療法士協会の最新データによると、2026年3月末時点での養成校総数は278校(うち募集停止10校)、総定員は14,589名です。
1995年時点では全国に約80校だった養成校が、高齢化社会への対応という政策的後押しを背景に、2005年には183校、2010年代後半には270校超にまで急増しました。
この急増の結果として表面化しているのが、養成校の定員割れです。
少子化による18歳人口の急激な減少と、養成校の乱立という2つの要因が重なり、特に地方の専門学校を中心に定員充足率が著しく低下しています。
地域・区分によっては定員充足率が78%前後にまで落ち込んでいるとの報告もあります。
実際に、2025年から2026年にかけて複数の養成校が学生募集の停止を発表しています。
茅ヶ崎リハビリテーション専門学校は閉校に向けた手続きを進めており、中部リハビリテーション専門学校は夜間部の理学療法学科を廃止するなど、養成校の再編が加速しています。
養成校数と定員の変化を以下の表にまとめています。
| 時期 | 養成校数(概数) | 年間総定員(概数) |
|---|---|---|
| 1995年 | 約80校 | 約2,600名 |
| 2005年 | 約183校 | 約8,000名 |
| 2015年 | 約245校 | 約12,000名 |
| 2023年 | 約279校 | 約14,574名 |
| 2026年3月末 | 278校 | 14,589名 |
出典:日本理学療法士協会「養成校一覧・統計情報」、厚生労働省「理学療法士・作業療法士の需給推計について」
養成校数が増えた分だけ国家試験合格者も増え、有資格者が累積していくという構造は今後もしばらく続きます。
現時点で理学療法士として働いている方や、これから資格取得を目指す方にとっては、「養成校が乱立したことで供給が膨らみ、需給のバランスが崩れている」という構造的な事実を正確に把握した上でキャリアを考えることが重要です。

理学療法士が増えすぎた原因は、単に「人気が出たから」という話ではありません。
政策・制度・業界構造が複合的に絡み合った結果として、今の供給過多が生まれています。
原因を正確に理解することは、今後のキャリアを判断する上でも重要な視点になります。
理学療法士が急増した最大の原因は、国の政策による養成校の急拡大です。
1989年に国が策定した「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」を起点として、高齢化社会に対応するためのリハビリ専門職の量的拡充が重要課題として位置づけられました。
さらに2000年の介護保険制度施行に向けた準備が進む中で、厚生省(現・厚生労働省)と文部科学省は養成施設の設置要件を緩和し、大学・専門学校が理学療法士学科を新設しやすい環境を整えました。
日本理学療法士協会の公式資料によると、1963年の制度創設から1990年代初頭まで緩やかに増えていた養成校は、1990年代の規制緩和を境に急激な増加に転じています。
1995年に約80校だった養成校が、2005年には183校、2015年には245校を超え、ピーク時には279校にまで達しました。
問題は、養成校の設置に際して「将来の供給過多」を防ぐ数量的な上限が設けられなかった点にあります。
医師については医学部の定員が国によって厳しく管理されています。
ところが理学療法士はコ・メディカル職として分類されており、医師ほど厳格な定員統制の対象にはなりませんでした。
その結果、学校法人側の経営判断で学科の新設が相次ぎ、供給ペースが需要予測を大幅に上回る事態に至ったのです。
養成校が増えた時期と有資格者数の増加が連動していることは、以下の推移からも明らかです。
| 時期 | 背景となる政策・出来事 | 養成校数(概数) |
|---|---|---|
| 1989年 | ゴールドプラン策定 | 約50校 |
| 1994年 | 新ゴールドプラン策定 | 約80校 |
| 2000年 | 介護保険制度施行 | 約118校 |
| 2006年 | 介護保険法改正(予防給付拡大) | 約200校 |
| 2015年 | 地域包括ケアシステム推進 | 約249校 |
| 2023年 | 現在 | 約279校 |
出典:日本理学療法士協会「養成校数の推移」、厚生労働省「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」
高齢化社会への対応という政策的な意図そのものは正当であったとしても、供給量の管理が不十分だったために、現在の飽和状態という副作用が生じています。
規制緩和によって学校数が増えすぎた点は、業界内でも制度上の課題として広く認識されています。
養成校の急増に加えて、少子化という社会構造の変化が供給過多をさらに複雑にしています。
文部科学省の資料によると、1992年には約205万人いた18歳人口は、2030年代前半には100万人を下回る水準まで減少する見込みです。
この18歳人口の急減は、医療系専門学校・大学を含む多くの高等教育機関に深刻な影響を与えています。
理学療法士養成校も例外ではなく、特に地方の専門学校を中心に定員割れが顕著になっています。
地域や学校種別によっては定員充足率が78%前後にまで低下しており、補助金のカットや収支悪化が経営を直撃する状況です。
ここで見落とされやすい点があります。
定員割れが続いていても、合格者が「0人になる」わけではないという事実です。
定員の半分しか入学者がいない養成校でも、在籍している学生全員が卒業し国家試験に合格すれば、毎年一定数の有資格者が輩出され続けます。
つまり、養成校の定員割れは「供給増加のスピードが鈍化する」ことを意味するにすぎず、有資格者の総数が減ることには直結しません。
少子化が養成校の経営難を招いても、すでに養成した有資格者の累積数はリセットされないのです。
この構造的な非対称性が、「学校が減り始めているのに飽和が続く」という状況を生み出しています。
実際に日本理学療法士協会の統計では、国家試験合格者の累計は毎年約1万人ずつ積み上がり続けており、2026年時点で24万人超という水準に達しています。
今後も合格者が輩出される限り、有資格者の総数は増え続けます。
需給バランスが崩れているもう一つの構造的要因として、既存の理学療法士の離職率が相対的に低いという点が挙げられます。
これは競合サイトではあまり取り上げられていない盲点ですが、就職市場の競争激化を理解する上で重要な観点です。
日本理学療法士協会の「2016年(平成28年)医療従事者の需給に関する検討会」のデータによると、理学療法士の離職率は医療機関(病院)で10.2%です。
厚生労働省の令和5年(2023年)雇用動向調査では医療・福祉分野全体の離職率が16.9%、全産業平均が14.2%であることと比べると、病院勤務の理学療法士の離職率は相対的に低い水準にとどまっています。
| 分野・施設種別 | 離職率 |
|---|---|
| 医療機関(高度急性期) | 6.8% |
| 医療機関(急性期) | 9.4% |
| 医療機関(回復期) | 10.7% |
| 医療機関(慢性期) | 12.6% |
| 介護老人保健施設 | 20.5% |
| 通所リハビリ | 19.0% |
| 特別養護老人ホーム | 9.0% |
| 全産業平均 | 14.2% |
出典:厚生労働省「2016年(平成28年)医療従事者の需給に関する検討会」、「令和5年雇用動向調査」
この数字が意味するのは、特に人気の高い病院での理学療法士のポストは長期間同じ人が占め続けるということです。
離職率が低いほど欠員が生じにくく、新規求人が出づらい構造になります。
毎年約1万人の新たな有資格者が市場に参入する中で、既存の在職者が辞めなければ採用枠は増えません。
さらに、日本理学療法士協会の会員分布データによると、理学療法士の就職先は医療機関(病院・診療所等)に集中しており、会員の約6割から7割が医療機関に勤務しています。
訪問リハビリや介護老人保健施設など在宅・介護分野への就職割合はまだ低く、就職希望者と求人の分布に大きな偏りがあります。
人気の高い医療機関ポストには離職が少なく求人も少ない。
在宅・介護分野には求人があっても希望者が集まりにくい。
この需給の「偏在」も、飽和感を増幅させている重要な要因の一つといえます。

飽和状態が進む中で、理学療法士を取り巻く就職・給与の環境は着実に変化しています。
「国家資格があれば就職に困らない」という時代の感覚は、2026年時点では既に過去のものになりつつあります。
就職難化・給与停滞・転職市場の変容という3つの側面から、飽和が現場にどのような影響をもたらしているかを整理します。
新卒の理学療法士にとって、希望する就職先に入ることは以前と比べて難しくなっています。
特に影響が大きいのは、人気の高い急性期・回復期病院への集中です。
毎年約1万1,000人の新たな有資格者が誕生する中で、急性期病院の採用枠が劇的に増えているわけではありません。
採用説明会への早期参加・早期選考が当たり前になっており、3年生の夏頃から就職活動を本格化させないと志望先の選考に乗れないケースも増えています。
より具体的に状況を示すデータとして、日本理学療法士協会の会員分布が参考になります。
理学療法士の就職先は医療機関(病院・診療所等)に約6割から7割が集中しており、希望者の多くが同じ枠を競い合う構造になっています。
一方、訪問リハビリや介護老人保健施設など在宅・介護分野には求人があるものの、希望者が集まりにくいという偏りが生じています。
以下の表で、就職先の分布と競争状況を整理しています。
| 就職先の種別 | 理学療法士の就業割合(概数) | 競争の状況 |
|---|---|---|
| 病院・診療所(医療機関) | 約60〜70% | 採用枠に対して応募が集中しやすい |
| 介護老人保健施設 | 約10〜15% | 求人はあるが希望者が少ない |
| 訪問リハビリ | 約5〜8% | 求人が増加傾向だが希望者の絶対数は少ない |
| 通所リハビリ・デイサービス | 約5〜8% | 中程度の競争状況 |
| 教育・研究機関・その他 | 約5% | 枠が限られ競争は激しい |
出典 厚生労働省「令和4年版厚生労働白書 図表1-2-32 就業先別の理学療法士数の推移」、日本理学療法士協会「統計情報」
新卒段階で希望の職場に入れなかった場合、スキルアップの機会や将来のキャリアパスにも影響が出ることがあります。
就職活動においては早期の情報収集と戦略的な準備が以前にも増して重要になっているといえます。
理学療法士の給与水準が伸び悩む背景には、飽和状態に加えて、診療報酬制度という制度的な制約があります。
この2つが重なることで、給与の上昇を阻む二重の壁が生まれています。
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」によると、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士を含む区分の平均年収は約443万円です。
国税庁「令和5年分民間給与実態統計調査」による給与所得者全体の平均年収460万円と比較すると、約17万円下回る水準にとどまっています。
給与が上がりにくい第一の構造的理由は、診療報酬制度による収益の上限です。
理学療法士が提供するリハビリは1単位20分として診療報酬の点数が決まっており、1日の提供単位数は原則24単位(8時間)、1週間で108単位までと法定されています。
つまり、理学療法士1人がどれほど技術を磨いても、施設に対して生み出せる診療報酬には物理的な上限があります。
施設の収益に上限がある以上、そこから支払われる給与にも自ずと天井が生まれます。
第二の理由が、有資格者の供給過多による買い手市場化です。
有資格者が増えるほど、採用側は給与水準を引き上げなくても応募が集まるようになります。
採用競争が激しければ施設側は待遇を上げざるを得ませんが、応募者が豊富であれば給与を据え置いても採用が成立してしまいます。
以下の表で、理学療法士の年代別平均年収の目安を示しています。
| 年代 | 平均年収(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| 20代前半(新卒) | 約330〜360万円 | ボーナス満額前の初年度は低め |
| 20代後半 | 約370〜410万円 | 経験年数が積まれ徐々に上昇 |
| 30代 | 約410〜450万円 | 主任・チーフ等の役職で差が出やすい |
| 40代 | 約440〜480万円 | 管理職・専門資格保有者で上振れあり |
| 50代 | 約460〜500万円 | キャリアのピーク帯 |
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」をもとに作成
2026年度の診療報酬改定では医療従事者を対象とした賃上げ評価料が設けられており、病院では約9割が届け出済みとされています。
この動きにより、一定の給与改善が見込まれる施設は増えつつあります。
クリニック等では対応の遅れているところも多い点から、就職・転職時には賃上げ評価料の算定状況を確認しておくことが賢明です。
飽和の影響は新卒就職にとどまらず、転職市場にも及んでいます。
かつて「理学療法士は転職しやすい」と言われた時代とは状況が変わってきています。
転職市場における変化の核心は、「求人数は多いが条件のよい求人は少ない」という構造です。
有資格者が増えた分だけ求人への応募競争が激しくなり、採用側は待遇を引き上げなくても応募者を確保できるようになっています。
この結果として、給与・休日・キャリア環境が整った好条件のポジションほど、公開直後に応募が集まって早期に選考終了となるケースが増えています。
もう一つの変化が、経験者・専門性保有者の優遇傾向の強まりです。
以前は経験2〜3年でも転職に有利な状況でしたが、施設側の選択肢が増えた今は、認定理学療法士などの専門資格保有者、特定分野に実績のある即戦力、マネジメント経験者といったプロフィールが優先されやすくなっています。
以下の表で、飽和前後の転職環境の変化を整理しています。
| 観点 | 飽和前(〜2015年頃) | 飽和が進む現在(2026年時点) |
|---|---|---|
| 求人への応募競争 | 比較的緩やか | 好条件求人への応募集中が顕著 |
| 採用側の選択眼 | 有資格者であれば採用されやすい | 専門性・資格・即戦力が重視される |
| 給与交渉の余地 | 応募者側が交渉しやすい | 採用側が有利な買い手市場 |
| 求人の質 | 条件のよい求人が多く出やすかった | 好条件求人の数が相対的に少ない |
| 転職活動期間 | 短期で決まりやすい | 希望条件を満たすまでに時間がかかる |
飽和が進む中でも、転職の完全な停滞ではなく「より難しくなった」という表現が正確です。
特定分野の専門性を高めたり、管理職やチーフとしての実績を積んだりすることで、転職市場での競争力を維持することは十分に可能です。
給与水準や就職環境の変化を「悲観的に受け取る」のではなく、「どのような準備をすれば飽和時代でも優位に立てるか」という視点に切り替えることが、現実的なキャリア設計につながります。

理学療法士の供給過多問題を考えるとき、「国はいつ、どのような形で介入するのか」という問いは避けて通れません。
その問いに対するヒントが、日本の医療系国家資格の中で先行して同じ課題に直面した歯科医師の事例にあります。
歯科医師が経験した定員削減と国家試験の難化という経緯を照らし合わせると、理学療法士に対して今後どのような制度的変化が起こりうるかが見えてきます。
歯科医師の供給過多問題は、理学療法士よりも数十年先に顕在化しました。
その経緯を振り返ることで、国が専門職の過剰供給にどう対処するかというパターンが見えてきます。
日本では1970年代から1980年代にかけて歯科大学・歯学部が急増し、毎年多くの歯科医師が輩出されるようになりました。
その結果として供給過多が深刻化し、1986年に厚生省(現・厚生労働省)の「将来の歯科医師需給に関する検討委員会」が「新規参入歯科医師を最小限20%削減すべき」との結論を出しています。
この提言を受け、国は歯学部定員の削減要請と国家試験の難化という2つの手段を組み合わせて需給の調整を図りました。
具体的な動きとして、文部科学省と厚生労働省は「確認書(歯学部定員等について)」において以下の方針を共同で確認しています。
この方針の結果、歯学部の定員はピーク時(1985年度)の約3,380人から令和7年度には約2,485人まで約26.5%削減されました。
国家試験の合格率も変化し、1990年代前半には90%前後で推移していたものが、2004年以降は70%前後の水準に定着しています。
以下の表で、歯科医師の供給過多問題への国の対応を時系列で整理しています。
| 時期 | 国・行政の対応 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1986年 | 厚生省検討委員会が提言 | 新規参入20%削減の目標を提示 |
| 1998年 | 厚生省「需給に関する検討会」報告 | 定員削減・国家試験見直しを明示 |
| 2009年以降 | 文科省・厚労省の共同確認書 | さらなる定員削減要請と合格基準引き上げ |
| 2015年〜 | 国家試験制度改善検討部会 | 合格基準の継続的な見直し |
| 2026年時点 | 歯学部定員 約2,485人 | ピーク時から約26.5%削減(文部科学省) |
出典 厚生労働省「歯科医師の適切な配置等に関するワーキンググループ資料」、文部科学省「確認書(歯学部定員等について)」
定員削減と国家試験の難化を実施しても、供給過多の根本的な解消には至りませんでした。
既に免許を持つ歯科医師の数は累積しており、歯科診療所数は2024年末時点でも約66,378軒と、大手コンビニチェーン総店舗数を上回る水準が続いています。
定員を削っても既存の有資格者の数はリセットされないという構造は、理学療法士の場合も同様に当てはまります。
歯科医師の先例を踏まえると、理学療法士に対して今後どのような制度的変化が起こりうるかを現実的に見通すことができます。
まず現状を整理すると、理学療法士の国家試験合格率は2026年時点で89.7%と、歯科医師の現在の合格率(約60〜70%)と比較して著しく高い水準にあります。
養成校数は278校・年間定員約14,589名(2026年3月末時点・日本理学療法士協会調べ)と、依然として大きな供給規模を維持しています。
歯科医師の先例に照らすと、理学療法士に対して国が取りうる制度的介入として以下の2つのシナリオが考えられます。
シナリオ1は「国家試験の合格基準引き上げ」です。
現在約90%の合格率を70%台まで引き下げることができれば、年間の新規有資格者数を数千人単位で抑制できます。
ただし合格基準の変更は養成校の教育内容にも影響し、国家試験浪人の増加という別の問題も生じます。
シナリオ2は「養成校定員の削減要請」です。
歯科医師の場合と同様に、文部科学省と厚生労働省が連携して各養成校に定員削減を要請するという手段です。
以下の表で、歯科医師と理学療法士の現状比較を示しています。
| 比較項目 | 歯科医師(2026年時点) | 理学療法士(2026年時点) |
|---|---|---|
| 国家試験合格率 | 約60〜70% | 約89.7% |
| 供給過多の認識 | 数十年前から顕在化 | 2020年代に本格化 |
| 国の介入実績 | 定員削減・合格基準引き上げを実施済み | 現時点では大きな制度的介入なし |
| 養成校定員 | ピーク比約26.5%削減済み | 依然として約14,589名規模 |
| 市場原理による調整 | 私立歯学部の定員割れが継続 | 養成校の募集停止が相次ぎ始めている |
出典:厚生労働省「歯科医師の適切な配置等に関するワーキンググループ資料」、日本理学療法士協会「養成校一覧・統計情報」、旺文社教育情報センター「第61回 理学療法士国家試験結果」
重要なのは、仮に国が定員削減や合格基準の引き上げを実施しても、その効果が現れるまでには相当の時間がかかるという点です。
歯科医師の事例でも、政策介入後も供給過多の状態が数十年にわたって続いていることが示すように、一度膨らんだ有資格者数の累積は容易には解消されません。
現在すでに資格を持って働いている理学療法士にとって、国家試験の難化や定員削減は直接的なキャリアリスクにはなりません。
むしろ今後の有資格者の増加が抑制されれば、長期的には需給バランスの改善につながる可能性があります。
一方で、これから資格取得を目指す方にとっては、将来の合格率変化を視野に入れた上で学習計画を立てておくことが望ましいでしょう。

飽和が進む中でも、特定の条件を満たした理学療法士は就職・待遇・転職のいずれにおいても優位な立場を維持できます。
「資格を持っているだけでは差別化できない時代」に何を積み上げるかが、今後のキャリアを左右する分岐点です。
ここでは実際に機能しているキャリア戦略を3つの軸で整理します。
飽和時代における最も直接的な差別化手段が、日本理学療法士協会が認定する上位資格の取得です。
資格という客観的な証明があることで、採用側からの評価が大きく変わります。
日本理学療法士協会の生涯学習制度は、2022年度から新体制に移行しました。
現在の制度では「登録理学療法士」を基盤として、その上に「認定理学療法士」と「専門理学療法士」の2段階が設けられています。
登録理学療法士は、協会に入会して前期研修(約2年)と後期研修(約3年)を修了することで取得できる基盤資格で、5年ごとの更新制です。
認定理学療法士はその先のステップとして、特定の専門分野を選んで研修・試験をクリアすることで取得します。
専門理学療法士はさらに高度なスペシャリストとして位置づけられており、学術的な貢献も求められます。
認定理学療法士の取得者数は、2025年時点で延べ17,145人とされており、理学療法士全体の約9%にとどまっています。
有資格者全体の9割が保有していない専門資格を持つことは、転職市場や施設内評価において明確なアドバンテージになります。
認定理学療法士の主な専門分野は以下のとおりです。
| 分野カテゴリ | 主な専門分野の例 |
|---|---|
| 運動器系 | 運動器、スポーツ、切断 |
| 神経系 | 脳卒中、脊髄損傷、神経筋疾患 |
| 内部障害系 | 循環、呼吸、腎臓 |
| 生活環境系 | 地域理学療法、介護予防、フレイル予防 |
| 小児・障害系 | 小児、発達障害 |
| 教育・管理系 | 学校教育、管理 |
出典:公益社団法人日本理学療法士協会「認定・専門理学療法士制度について」
注意が必要なのは、認定理学療法士の取得は登録理学療法士の取得が前提条件である点と、5年ごとの更新が必要な点です。
資格取得に向けた計画は、早期から逆算して立てておくとよいでしょう。
就職・転職市場における需給の偏在を逆手に取るのが、訪問リハビリや在宅分野へのシフトです。
病院への応募集中とは対照的に、在宅分野では依然として人材を必要としている施設が多く、キャリア選択の観点で有利な環境が続いています。
在宅分野の需要拡大の背景には、高齢化の進展があります。
内閣府「令和6年版高齢社会白書」によると、2023年時点で65歳以上の人口は全体の29.1%に達しており、2040年頃に向けてさらに増加が続く見込みです。
この高齢化の進展に伴い、在宅でリハビリを受ける方の数は今後も増えると予測されます。
給与水準の観点でも、在宅分野には特徴があります。
訪問リハビリ専門の事業所では、訪問件数に応じたインセンティブ制度を設けているところも多く、能力と行動量を給与に直接反映させやすい仕組みが整っているケースがあります。
病院勤務の理学療法士の平均年収約443万円に対して、訪問リハビリ分野では年収500万円以上を提示する求人が少なくなく、経験を積んで管理者候補になれば600万円の射程圏内に入る施設もあります。
また、2026年度の介護報酬改定では訪問リハビリについても処遇改善加算の対象が広がっており、在宅分野で働くセラピストの待遇改善が制度的にも後押しされています。
在宅分野への移行を検討する際に確認しておきたいポイントを以下に整理しています。
| 確認ポイント | 理由 |
|---|---|
| 訪問件数あたりの報酬・インセンティブ体系 | 施設によって給与構造が大きく異なる |
| 担当エリアの範囲と移動手段 | 訪問件数と労働時間に直接影響する |
| 管理者候補・昇格パスの有無 | 長期的なキャリア形成に関わる |
| 処遇改善加算の算定・還元状況 | 実際の給与水準に関わる |
| 研修・同行訪問などの支援体制 | 病院とは異なる知識・スキルが求められるため |
訪問リハビリへのキャリアシフトは、病院勤務と環境が大きく異なるため不安を感じる方もいるかと思います。
とはいえ、需要が旺盛な市場に自ら飛び込むことは、飽和時代のキャリア戦略として合理的な選択肢の一つといえます。
飽和問題の本質が「病院・診療所への就職希望者の集中」にあるとすれば、そもそも医療機関以外のフィールドにキャリアの軸を置くことも有力な戦略です。
理学療法士の専門知識が活かせる領域は、医療施設の外にも広がっています。
日本理学療法士協会の2023年3月末時点の調査では、理学療法士の約76%が医療施設に勤務しているとされています。
裏を返せば、残りの約24%はスポーツ・介護・企業・行政・研究・教育など多様な領域で活躍しているということでもあります。
医療機関外のキャリアフィールドとして代表的なものは以下のとおりです。
スポーツ・フィットネス分野では、プロスポーツチームのトレーナー、フィットネスクラブでの運動指導・プログラム監修、学校・大学での部活動サポートなどの役割があります。
理学療法士としての解剖学・運動学の知識は、故障予防やパフォーマンス向上に直接活かせます。
産業保健・予防分野では、企業の健康経営推進の文脈から、腰痛予防・転倒予防・メンタルヘルスケアを担う理学療法士への需要が生まれています。
日本理学療法士協会は2026年5月に「理学療法士のための産業保健入門」テキストを刊行しており、産業保健領域での理学療法士の活動を制度的に後押しする動きも出ています。
一般企業・メーカー分野では、スポーツ用品メーカーでのインソールや運動器具の商品開発、フィットネス関連企業での高齢者向けプログラム監修、医療・介護機器メーカーでの技術営業やアドバイザーなどの役割があります。
以下の表で、医療機関以外の主なフィールドを比較しています。
| フィールド | 求められる知識・スキル | 飽和の影響 | 収入の目安 |
|---|---|---|---|
| スポーツ・フィットネス | 運動学・スポーツ障害・コンディショニング | 低い | 施設・契約により幅広い |
| 産業保健・予防 | 人間工学・予防医学・コミュニケーション | 比較的低い | 正規雇用なら安定的 |
| 一般企業・メーカー | 専門知識を一般向けに伝える力・企画力 | 低い | 職種・企業規模による |
| 行政・公衆衛生 | 地域保健・集団指導・プログラム企画 | 枠が限られる | 公務員水準で安定 |
| 教育・研究機関 | 学術力・論文実績・指導経験 | 枠が限られる | 機関による |
医療機関以外のフィールドは、病院勤務とは求められるスキルセットが異なります。
コミュニケーション力、自己発信力、企画力など「人と知識をつなぐ力」が重要になるケースが多く、早い段階から意識的に養っておくことが活躍につながります。
増えすぎているのは事実です。
日本理学療法士協会の統計によると、2025年3月末時点の国家試験合格者の累計は23万6,390人で、2026年時点では24万人を超えています。
1963年の資格制度創設から10万人に達するまで約50年かかりましたが、そこから10年余りで倍の20万人を突破しており、過去50年と比べて約5倍のスピードで増えています。
毎年約1万人以上の合格者が輩出され続けており、厚生労働省の需給推計では2026年頃に供給過多が明確化すると示されています。
増えすぎという表現は数字の上でも正確な認識といえます。
飽和と人手不足が同時に起きているのは、需給の「偏在」が原因です。
理学療法士の約6〜7割が病院・診療所などの医療機関に集中しており、希望者が多い医療機関では競争が激しい一方、訪問リハビリや介護老人保健施設など在宅・介護分野では依然として求人が埋まりにくい状況が続いています。
供給数の問題だけでなく、人材が必要な場所に届いていないという分配の問題が重なっているため、「全体では増えすぎているのに、特定の現場では足りない」という矛盾が生じています。
なくなる可能性は低いといえます。
理学療法士の仕事は、患者一人ひとりの身体状態・生活環境・心理状況を組み合わせて評価し、個別のリハビリプログラムを組んで実施するものです。
AIや機械では代替しにくい判断・調整・コミュニケーションの要素が大きく、職業そのものがなくなるというシナリオは現実的ではありません。
厚生労働省の需給推計でも、高齢化の進展に伴い理学療法士への需要は2040年頃まで増え続けると予測されています。
問題は需要がなくなることではなく、供給の増加が需要の伸びを上回っていることです。
仕事自体は残りますが、「資格があれば誰でも望む職場に入れる」という時代ではなくなっています。
大幅に下がる可能性は低いものの、上昇しにくい構造は続くと考えるのが現実的です。
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」によると現在の平均年収は約443万円で、全給与所得者の平均約460万円をやや下回る水準です。
給与水準が伸び悩む背景には、診療報酬制度による1日あたりの提供単位数上限(24単位)という制度的な収益の天井と、有資格者の増加による買い手市場化という2つの構造的要因があります。
2026年度の診療報酬・介護報酬改定では医療・介護従事者を対象とした賃上げ評価料が設けられており、一定の待遇改善が見込まれる施設も増えています。
専門資格の取得や管理職ポジションへの就任などで、個人として給与水準を引き上げることは引き続き可能です。
一概にやめたほうがいいとは言えませんが、現状を正確に把握した上で判断することが重要です。
供給過多が進む中でも、専門性を磨いた理学療法士は就職・転職・待遇のいずれにおいても優位な立場を維持できます。
判断の際に押さえておきたいのは以下の3点です。
第一に、訪問リハビリや在宅分野など競争が比較的少ない領域には依然として需要があります。
第二に、認定理学療法士などの上位資格を取得した有資格者は全体の約9%にとどまっており、専門性を証明できれば差別化は十分に可能です。
第三に、養成校の偏差値が低下している現状では、入学のハードルが下がっている反面、教育の質の差が拡大しつつある点も考慮する必要があります。
進学先の養成校の国家試験合格率や教育体制を事前にしっかり調べることをおすすめします。
数の規模では理学療法士のほうが供給過多の度合いが大きい状況です。
日本理学療法士協会の統計によると、理学療法士の累計合格者数は2026年時点で24万人超です。
作業療法士の累計合格者数は同時点で約10万人台とみられており、人数規模では理学療法士が約2倍以上多い状況が続いています。
需給バランスの厳しさは地域・分野によって大きく異なります。
厚生労働省の需給推計では理学療法士と作業療法士を合算して2040年に供給が需要の約1.5倍になると示されており、両職種ともに中長期的な供給過多という方向性は共通しています。
どちらが「より安全」かというより、どの分野・地域で働くかというキャリア戦略のほうが待遇や就職しやすさに大きく影響します。
あります。
一般的に都市部ほど養成校が多く有資格者も集中しやすい傾向があり、東京・大阪・愛知などの大都市圏では病院への競争が激しくなっています。
地方では養成校数は少ないものの、過疎化や人口流出によって医療機関自体の規模が縮小しているケースもあり、単純に「地方なら就職しやすい」とはいえません。
むしろ着目すべきは就職先の種類です。
訪問リハビリや介護老人保健施設など在宅・介護分野の求人は、地方・都市部問わず依然として充足されにくい状況が続いています。
地域よりも「どの分野で働くか」という選択が、実際の就職のしやすさを左右するといえます。
QAとして挙げた7問は、現役の理学療法士や志望者が実際に検索エンジンやSNSで問い合わせている内容を意識して選んでいます。
「飽和しているのに人手不足」という矛盾した現象の背景には偏在という構造的な問題があるという点は、単純な「増えすぎ=悪い」という理解よりも一歩踏み込んだ視点です。
将来のキャリアを考える際に、この構造を理解しているかどうかで取れる選択肢が変わってくると感じています。
参考・引用サイト
本記事の作成にあたり、以下の公的機関・信頼性の高いサイトの情報を参照しています。